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或る渓のお話

釣りに行くと、よく間違われます。どうやら、似たヤツがいるらしい。
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サラリーマンをしていた15年前、取引先のお店が新装開店致しました。ご夫婦が切り盛りする、典型的な家族経営のお店で、開店時、応援としてお手伝いをさせていただきました。大人しい旦那さん、元気で溌剌とした奥さんが店の中を飛び回り活気にあふれていました。ご主人をAさんとします。

 その二年後、そのお店が倒産したと知らされました。当然、自分の勤め先にも売り掛けがありましたが、金融機関が全て押さえてしまい、代金の回収が出来るはずも無く、店は売却されAさんと奥さんは居なくなってしまいました。詳しい事はわかりませんが、Aさんが連帯保証人になった債務者が、返済不能になり銀行から返済を求められた事でお店の経営が圧迫され倒産に至ったとの事でした。それから数年後、会社を辞め、自営で仕事を始めた頃、Aさんと奥さんが尋ねてきました。

Aさん「商売を始めたんだってね。お世話になったから、何か買って上げられればと思ってね」

私  「ありがとう御座います。お久しぶりです。皆さんお元気ですか?」

Aさん「女房が体調悪くてね。まぁ、色々あるよ」

そんな会話があって、帰られましたが、確かに奥さんは顔色が悪く(と言うか、殆ど真っ黒で、目は黄色く黄疸が出ていた)歩くのも大変のようで杖を突いていました。自分との会話は無く、ただニコニコ笑っていました。開店当時の溌剌とした奥さんのイメージが強かったものですから、見るからに病人の姿を見て大変ショックを受けました。それから暫くして、奥さんは亡くなったと、お聞きしました。非常に重い内蔵の病気だったようです。

或る年、ホームグランドの渓に砂防ダムの建設が始まりました。その川は荒れ川で、過去に土石流で工事現場の方が何人も亡くなった事もあり、イワナは釣れるが雨が降ると怖いそんな川でした。釣りにいく度に、新しく林道ができて重機が通り、ポイントは潰れ魚影が薄くなっていきます。

2006年、何時ものように、予定の行程を釣りあがり車止めに戻ってきました。午後5時、工事現場から作業員の人達も上がってきます。その作業員の中の一人が親しげに、「釣れたかい?」そう話しかけて来ました。やけに、馴れ馴れしいと思ったその人はAさんでした。「釣りか、いいなぁ~」そう言って、ニコニコ笑うその顔は、店を切り盛りしていた時と変わりません。奥さんは亡くなり、債務は未だ残っているだろうし、そんな自分よりはるかに年上のAさんが働いている時(闘っている時)に、釣りをしているのが恥ずかしくて、挨拶もそこそこに慌ててその場を離れました。
帰りがけにAさんが「元気でな!釣りはいいなぁ」「ホントに釣りはいいな」そう言いました。

その後、ダムは完成し、Aさんとお会いする事は有りません。また、何処かでお会いできればと思います。ヤマトイワナが棲む渓での話です。



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